設計業務を「外注」するメリットとデメリットについて
住宅業界はマンパワー頼みの側面が強いものですが、設計業務もその例に漏れません。社内の設計スタッフのみで業務を行う「内製」にこだわるあまり、スタッフに過度に負担がかかる状況となるケースも少なくありません。
この状況は、ハウスビルダー様の業績拡大の動きに設計業務が追いつかなくなっていることを表すものです。
今回はそうした状況から脱却するための手段の1つである「業務の外注化」に注目し、そのメリットとデメリットについて考えていきます。
なお、外注とは、法人(設計事務所)や個人の設計士といった社外に業務の一部を依頼することを指します。多岐にわたる業務のうち、その対象となるのは主に意匠図の作成、各種申請、構造・省エネ等の計算、建築確認申請の書類づくりなどとなっているようです。
「外注」のメリット・デメリット
メリット
・人件費を中心とする固定費の削減
・社内スタッフに業務上のゆとりを生み出す
・その結果、本来重視すべき業務に集中しやすくなる
デメリット
・業務品質の管理や安定化が難しい
・社内スタッフの設計スキルが上がらない
固定費削減、「働き方改革」の実現にも効果!
外注の一つ目のメリットとしては、固定費を削減できることがあげられます。
設計業務における固定費で主要なものは、社内スタッフの人件費や教育費、CADソフトの導入費用など。
ハウスビルダー様の経営圧迫にもつながりかねないこれらの固定費の増加を、外注することにより回避することができるわけです。
例えば、閑散期、あるいは通常期の仕事量をベースに最小限の社内設計スタッフを抱え、業務の一部を外注することで、固定費を圧縮しつつ、スムーズかつ効率的に業務を回せるようになる場合もあります。
外注の二つ目のメリットは「社内設計業務のミス」を軽減する効果。
社内の設計スタッフだけによる「内製」の業務では、特に繁忙期にはスタッフの仕事量がオーバーフローになり、時間的・精神的な余裕が失われてしまうことがあります。そうなると、作業ミスが起こりがちになり、事業全体に悪影響を及ぼすこともあります。
外注によりスタッフの時間的、精神的なゆとりが生まれることで、作業ミスが減るだけでなく、本来より注力すべき業務、具体的には社内外との打ち合わせや顧客への提案などの活動を充実できるようになります。
残業や休日出勤を減らすことができることにより「働き方改革」を実行できる可能性も高まります。スタッフの幸福度が高まれば、ハウスビルダー様の悩みの種となっている設計スタッフの離職率の改善にもつながり、業績アップの下支えとなるでしょう。
業務品質、データの整合性確保などに課題
一方で、外注を積極的に導入すれば、全てがバラ色というわけではありません。当然ながらデメリットが生じることもあります。
外注のデメリットとしてまず挙げられるのが、業務品質の管理や安定の難しさです。
外注先の業務品質にミスが多い場合、その修正に膨大な時間と労力が必要になり、その結果、設計業務のみならず、後工程のスケジュールの遅延など社内全体に混乱を招いてしまうこともあります。
ハウスビルダー様と外注先の設計ルールを統一するのも一苦労です。特にハウスビルダー様が導入しているCADソフトと外注先が使用しているCADソフトが異なるケースでは混乱する場合もあります。CADデータの整合性が失われかねないからです。
使用料がかからないフリーソフトを使用している外注先も多くあり、この場合はハウスビルダー様のCADソフトとのデータ連携が完全に行われないことがあるため、設計変更による図面修正には特に注意が必要になります。
さらに、個人の設計事務所の場合、意匠図作成や構造計算、建築確認申請などそれぞれに得意分野、受注できるキャパシティに限りがあり、それらに合わせて複数の外注先に依頼することが必要になるため調整に苦労するケースも見られます。
先ほど、外注のメリットとして「社内設計業務のミス」を軽減できる旨を紹介しましたが、外注先の業務品質の管理ができなければ「社外(外注先)設計業務のミス」に振り回されてしまうということが懸念されるのです。
また、外注先への依存度を高めた結果、社内スタッフの設計スキルが上がりにくくなるといったデメリットも想定しておく必要があるでしょう。
さて、ここまでお読みいただいてお気づきかもしれませんが、設計業務の外注を行うことのメリット・デメリットは、内製のそれと表裏一体であるのです。
「内製」のメリット・デメリット
メリット
・業務品質の管理がしやすい
・ミスの修正など社内で小回り良く対応でき混乱が少ない
デメリット
・固定費をはじめとするコストの増大
・新規スタッフの採用・教育にコストと時間がかかる
ところで、住宅業界では大工や職人の高齢化が問題となっていますが、それは建築士の世界でも同様です。
業務品質の高さはもちろん、急な依頼に対応してくれる信頼できる外注先を確保できたとしても、それが長期間、安定的に継続するものではないのです。
ある日突然、外注先が廃業し、その代替となる相手を探し出し、いちから作図の指示をする…、などという作業が必要になるわけです。外注先への依存度が高ければ高いほど、廃業の影響はハウスビルダー様にとって深刻になるでしょう。
外注にも将来的に解決すべき課題が多々あるということがお分かりいただけたのではないでしょうか。
次回は、内製と外注に続く設計業務の改善を図るための第三の手段、「海外CADセンターの設置」に関するメリットとデメリット、そして野原住環境が考える合理的な設計業務の在り方についてご紹介します。